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ID 7045
Eprint ID
7045
FullText URL
K001605.pdf 230 KB
Author
嶺田 拓也
Abstract
本研究は,低コスト化や省力化,そして環境への負荷の軽減を目指したLISA (Low Input Sustainable Agriculture = 低投入持続的農業) を実現するために,水田生態系に対する撹乱的働きかけを最小限にとどめた不耕起水田において,マメ科緑肥作物で覆うことにより,合理的かつ適切な雑草管理の方向性を追求したものである.これらの研究成果の概要は以下の通りである.I. レンゲ草生マルチを活用した不耕起水稲作における雑草の発生消長 まず我が国で古くから水田冬作に緑肥作物として栽培されてきたレンゲを草生マルチの候補種とした.不耕起水田にレンゲを草生マルチとして活用した水稲直播栽培を3年間継続したところ,栽培試験の初年度は,レンゲはよく繁茂し冬生雑草の発生も少なかった.そして湛水後の夏生雑草の発生は,前年の慣行栽培時に多数発生したコナギが消滅したほか他の草種の発生も少なく,水稲収量も470kg/10a以上を得た.またレンゲ草生マルチをレンゲ開花期の5月中旬に除去すると, 湛水後に一年生のカヤツリグサ科やアゼナ属を主とした水田夏生一年生雑草の密度が顕著に増加し,レンゲマルチによってこれらの雑草の発生を抑制できることが明確となった.しかし2年目以降,レンゲ群落の衰退とスズメノテッポウ,ノミノフスマなどの冬生雑草の増加が認められ,それに伴いヒエ属などの水田夏生雑草の発生数も増加して水稲収量は激減した.従って,レンゲ草生マルチによる雑草管理の問題点として,(1)イヌビエやヒメタイヌビエなどのノビエの 発生に対しては抑制効果が劣ること (2)圃場に湛水を開始する時期が遅くなるとレンゲが枯死し,マルチ効果が薄れること (3)全く除草を行わないと次年度以降の発生ポテンシャルとなる埋土種子集団の増加を抑えきれないこと,を明らかにした.II.異なる種子深度および潅水条件下における数種の植物マルチ資材がヒメタイヌビエの発生に及ぼす影響 ヒエ属のヒメタイヌビエ種子を用いて,レンゲ,へアリーベッチ, シロクローバおよびヨシのマルチ資材と,マルチ量,種子埋土深度,そして海水条件の4要国を組み合わせて発生数の比較を試みた.分散分析(ANOVA)や数量化理論I類による解析の結果,ヒメタイヌビエ同子が地表面lに存在する場合にはマルチの存在によって有意に発生が抑制され,その抑制の度合いはマルチの量が多いほど,そして深水になるほど強まることが明らかになった.従って,マルチ草種としては現存量の多い草種ほど雑草の発生が制御できると考えられた.III. 草生マルチの雑草抑制能力と湛水時期との関係 1.レンゲ以外のマルチ草種の活用の可能性を検討するために,強いアレロパシーも報告されているマメ科一年生緑肥作物のへアリーベッチと多年生のシロクローバを圃場に栽培し,雑草抑制力をレンゲと比較した.その結果湛水時まで旺盛な生育を続けるシロクローバや,現存量がレンゲの約2倍あり,密な群落を 形成するために光遮蔽効果が枯死後も維持できるへアリーベッチが,レンゲよりも冬生雑草および湛水後の雑草の発生を抑えた.そしてへアリーベッチマルチ区に移植した水稲は登熟歩合や千粒重が高まり,488.6kg/10aの収量が得られた.2.湛水下のマルチが分解する過程で植物の発芽および生育に及ぼす影響をレタス種子を用いて検討したところ,枯死群落より生存群議への湛水で,また植物部位別では葉部から得た水抽出液が顕著にレタスの発芽を阻害することが明らかになった.そしてレタスの発芽および初期生育阻害は,水抽出液のECと関係があり,有機溶媒を用いた水抽出液の分画操作の結果,有機酸が阻害作用に関与していることが推察された.このことから,マルチ草種がまだ旺盛に生育し,葉部の比率が高い開花期頃までに湛水を開始すれば,雑草の発芽や生育を抑制する可能性が示唆された.IV.雑草防除法,耕起法および作付け様式の異なる水田における埋土種子および雑草発生消長の比較 雑草の埋土種子量と圃場の管理様式との関係を調べたところ,不耕起水田では埋土種子の分布が表層部に偏り,また除草剤連用水田や丹念に手取り除草を続けている圃場では,雑草の発生ポテンシャルが少ないことを把握した.そして積極的に雑草防除を行わない不耕起水田では,ヒエ属を中心に埋土種子量が多くなった.従って,草生マルチの活用による雑草管理においても,次年度以降の発生ポテンシャルの増加を抑えなければ,マルチで抑制できない雑草が増加することが示唆された.以上の試験結果に基づき,①初期生育がなるべく速やかで, 他雑草との競合に有利であること,②現存量が多く密度の高い群落を形成し,光遮蔽効果を保つこと,③ アレロパシー活性が高いこと,④湛水開始期まで生存していること,⑤水稲栽培期間中,マルチが残存すること,⑥連作が可能で,毎年安定して繁茂すること ⑥ 湛水による枯死以前に種子を生産し,自然更新すること,が不耕起水田の雑草管理に適した理想的な草生マルチの条件と考えられた.最後にこれらの結果をもとに,マルチ草種と水稲との競合も考慮しつつ,圃場への湛水が5月上旬以前に可能となる地域ではレンゲ,そして湛水開始時期が6月中旬以降となる地域では枯れ上がりが遅く乾田期間中のマルチ効果が維持でき るへアリーベッチを草生マルチとして活用する雑草管理の試案を提示した.
Published Date
1997-03-25
Publication Title
Content Type
Thesis or Dissertation
Grant Number
甲第1605号
Granted Date
1997-03-25
Thesis Type
Doctor of Philosophy
Grantor
岡山大学
Thesis FullText
Thesis or Dissertation (See FullText URL)
language
Japanese
File Version
publisher
Refereed
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