音楽は,園生活の中で領域「表現」の活動の一つとして取り入れられているが,活動の在り方は様々である。
本研究では,園生活における観察から,幼児の自発的な音楽を介した表現の実態を明らかにすることを試みた。
その結果,幼児が自分の感情や状況を歌詞になぞらえたりして,自発的に音楽を介した表現を行う姿が見られた。
音楽を介した表現によって,自他の感情調整の役割を果たすことが明らかになった。また,歌詞に合わせた身体
表現は,未熟な言語力を補完する役割を担っていた。共通に知っている歌は表現したい意図や,感情を共有する
際の媒体となって,幼児間のコミュニケーションを円滑にする役割も担っていることが示された。
幼児の自発的な表現を引き出すためには,保育者が音楽技術の習得を目指した指導的なかかわりをするのでは
なく,音楽を介した自己表現として肯定的に受け止め,応答する援助が欠かせないことが明らかにされた。