本稿は19 世紀ドイツリアリズム期を代表する作家のひとりであるテオドール・シュトル
ム(1817-1888)の作品『今と昔(Von heut und ehedem)』(1873)において、シュトルム自身と考
えられる<私>とシュトルムの母方の<祖母>の視点から、かつての曾祖父の家や祖父の家
とそこに集まる人々の様子、そしてさらには故郷の町フーズムがどのように描き出されてい
るかについて考察することを目的とする。自らの記憶のもはや届かない<祖母の過去>にま
で話を繰り広げる<私>からは、失われてしまったものへ哀惜の念を抱き、それを物語の中
で再びよみがえらせようとするシュトルムの姿が見て取れるのである。