1.オランダハツカと日本薄荷との相反交雑によつて得た種間雑種 F1の5系統は,何れも強健で生育旺盛であつたが,草丈,開花期,葉の大きさ,花の色,茎葉の花青素及び毛茸の量等所謂数量的形質に関して,相互間で相違を示した.これらの相違は,2系統の日本薄荷親を用いた事によるとも考えられるが,その変異の巾は日本薄荷内の変異の巾よりも広く,両親にヘテロに存在していたポリジーンの分離,再分配によるものと見るのが至当であろう.又葉及び花序の形態,繁殖茎の習性,茎葉中の精油の香気等,両親種間の本質的相違と考えられる形質は,何れを父とし又何れを母としても変りなく,且,F1でほぼ中間性を示した. 2.F1中〔92〕を除く他の4系統は葯が全く退化している.これら4系統は勿論,葯の退化していない〔92〕も,葯の中には稔性花粉を全く含んでいない.放任受精の場合も,両親に戻交雑した場合も,F1諸系統は殆んど種子を着けない.合計4100個の花を調査して12個の種子を得たに過ぎず,中10個は〔92〕の種子であつた. 3.前報に示した様に,日本薄荷の花粉母細胞減数分裂のM1において48IIが観察され,減数分裂の全経過は正常である.オランダハツカではPMCの成熟第1分裂から第2分裂中期迄は正常で,夫々24II及び24Iの染色体が観察された.然るにAIIにおいて染色体の不規則な分配が起るため,正常4分子は約49%しか見られない.之が本種の稔性を低める原因であると考える.そのPMCの成熟分裂の不規則性から,本種は種の分化過程において種間交雑を経,種形成後も日尚浅く,安定種に迄は達していないという結論に達した. 4.F1の体細胞染色体数は何れの系統においても72であつた.PMCの成熟分裂は〔92〕で調べたが,MIにおける2価染色体の出現頻度は3~10,モード6,他は全部一価であつた.又4分子は全く退化していた.これらの点から日本薄荷とオランダハツカとは類縁関係が遠いと推定される。