神經系統ノ「インドフェニールオキシダーゼ」反應知見補遺

動物體ノ「オキシダーゼ」反應ニ就イテハEhrlich氏以來多數ノ人々ニ依リ種々ノ方法ヲ以テ檢査セラレタリシガ神經系統ノ「オキシダーゼ」反應ニ關シテハEhrlich氏ハ腦ニ於テAbelous及ビBiarnès氏ハ腦ニ於テVernon氏ハ腦延髓及ビ小腦ニ於テIndopbenolblausyntheseヲ觀察シ只漠然ト其ノ陽性ナルカ陰性ナルカヲ述べ微細ナル點ニハ更ニ言及セズ. 又多クノ學者Slozon, Rosell, Kliopfer,藤原,池田其ノ他ハ神經系統ニハ「オキシダーゼ」ノ存在ヲ否定セリ. 然ルニGäff氏ハ神經組織ニ「オキシダーゼ」反應陽性ナル部分アルコトヲ主張シ殊ニ神經節細胞ニハ非常ニ多數ノ「オキシダーゼ」顆粒アルコトヲ證明セリ.然レドモ其ノ「オキシダーゼ」顆粒ノ微細ナル分布状態ニ關シテハ論及スルトコロナカリキ,勝沼博士ハ1915年v. Gierke氏法ヲ模倣シテ神經系統ノ「オキシダーゼ」反應ヲ精細ニ檢査シテ「オキシダーゼ」顆粒ノ分市状態ヲ詳細ニ記載セラレタリ. 1916年Düring氏ハ病理解屍體ノ新鮮ナル材料ヲ用ヒテ中樞神經節細胞ノ「オキシダーゼ」反應竝ニ其ノ意義ニ就イテ研究セリ. 1922年Kappers氏ハ魚類ノ腦ヲ用ヒテ其ノ神經節細胞ノ「オキシダーゼ」反應ヲ檢査セリ. 予モ亦本間題ニ就イテ上坂教授指導ノ下ニ詳細ナル檢査ヲ行ヘリ. 使用セル動物ハ家兎, 犬, 鼠ニシテv. Gierke氏法ヲ模倣シテ0.025%ノα-NaphtholトDimethylparaphenylendiaminトノ食鹽水溶液ヲ用ヒタリ. 檢査ノ結果次ノ如キ結論ヲ得タリ. 予ノ行ヘル檢査ノ成績ハ大體ニ於テ勝沼博士ノソレト大同小異ナリ. 中樞神經ノ灰白質ニ於テハ最初一般ニ瀰漫性ニ青染シヤガテ神經節細胞ニー致シテ著明ナル青色顆粒表ハル. 神經細胞核ハ本反應一般ニ陰性ニシテ微細ナル「インドフェノール」顆粒ヲ以テ充タサレタル細胞體ヨリ明カニ區別スル事ヲ得. 但シ小腦プルキンエ氏細胞,脊髓神經節細胞ハ例外ニシテ核小體ニ「オキシダーゼ」顆粒テ認メ得ルコトアリ. 尚ホ又脊髓前角ニ存スル運動神經細胞ハ其ノ核小體ハ多クノ場合極メテ微細ナル青色顆粒ヲ以テ充タサレタルヲ見タリ. 神經細胞ノ細胞體竝ニ其ノ樹枝状突起ハ微細ナル極メテ多數ノ「オキシグーゼ」顆粒ニテ充タサル之ニ反シ神經突起ニハ極メテ少數ノ青色顆粒存ス. 而モ一度青染セル切片ヲ室温中ニ放置スルニ神經突起ニ存スル青色顆粒ハ樹枝状突起ニ存スルモノヨリハ速ニ消失ス. 運動核ト知覺核トニヨリテハ「オキシグーゼ」反應ニハ差異ナキモノノ如シ, 然レドモ下橄欖ニ於テハ他ノ神經核ニ比シ其ノ「オキシダーゼ」顆粒ハ形稍大ニシテ其ノ數少キモノノ如シ. 中樞神經灰白質ハ全然「オキシダーゼ」反應陰性ナリ. 脊髓神經節ニ在リテハ同一種ノ細胞ト雖モ同樣ノ「オキシダーゼ」反應ヲ呈スルコトナク其ノ度極メテ種々ナリ. 強ク陽性ニ表ハルルモノハ多數ノ青色顆粒ヲ以テ其ノ細胞ヲ充タサルルニ反シ陽性ノ度弱キモノハ只核ノ周圍ニノミ極少數ノ「オキシグーゼ」顆粒存スルノミナリ. 斯ク種々ノ程度ニ染マリタル細胞ハ何等ノ配列ノ順序ナク不規則ニ混在ス. 中樞部ニ存在スル神經終末ハ三叉神經知覺繊維ニ就イテ檢スルニ「オキシダーゼ」反應陰性ナルモノノ如シ. 軸索ハ其ノ中樞神經細胞ヲ出テ極メテ僅カノ經過竝ニ末梢部終末ヲ除クノ外凡テ本反應陰性ナリ. Piamaterハ微ニ本反應陽性ナレドモ, 夫レガ神經繊維ト交叉シテ夫レヲ中樞部ト末梢部トニ區分スル部分ニアリテハ「オキシダーゼ」反應ハ全ク陰性ナルモノノ如シ.

原著