本総説は,筆者らが進めている「低線量放射線の健康への影響と医療への応用」に関する研究に資するために調査した,化学発がんの非遺伝毒性的メカニズムの解明に関する最近の動向の概要についてまとめたものである。即ち,非遺伝毒性的発がんにおける細胞増殖,シトクロムP450誘導,酸化的ストレス,および遺伝子発現のそれぞれの役割,並びに量的な応答性について言及した。また,後成的発がんにおけるアポトーシス,およびギャップ結合による情報伝達のそれぞれの役割についても触れた。その結果,非遺伝毒性的な発がん物質の作用の様式とメカニズムやこれによる後成的な影響などについては解明さ
れつつあり,特に,これらの発がん物質がゲノムDNAに対し直接的な相互作用,突然変異,修飾などを行う発がん物質とは機能的に異なった作用をすることが明らかになった。また,これらは放射線発がんなど低線量放射線の健康への影響などについて研究する上で,重要な知見となっていることもわかった。
化学発がん (chemical carcinogenesis)
非遺伝毒性 (nongenotoxicity)
後成説 (epigenesis)
酸化的ストレス (oxidative stress)
ギャップ結合 (gap junction)