本稿では,歌唱授業において指揮の活用を進めるために,音楽授業での指揮の取り扱いの実状を調査し,指揮を取り入れる際の課題について考察した。このために,教員養成学部の合唱受講生及び学校教員に対するアンケート調査を実施した。その結果,音楽授業での指揮の必要性や有効性を合唱受講生,学校教員ともに認識している一方,歌唱指導や合唱指導をピアノの弾き歌いで行うという旧来の指導方法が定着しているため,音楽表現に活かせる指揮が活用されていないこと, 指揮法に自信のない教員が少なからず存在すること,研修の機会を求める教員が多数存在することが明らかになった。音楽授業で,音楽を共有しながら表現を追求していくためには,生徒に正対し,意思疎通を図りながら授業を進めていくことが必須で,このためにはピアノ伴奏をしながら歌唱指導を行うという旧来のスタイルから転換し,アカペラの教材を増やし,音楽教員の歌声を基盤とした授業が必要である。さらに,基礎を身に付ける重要な時期である小学校の全学年にわたって,専科指導を推進し,また,音楽教員のリカレント教育も切実な問題と考える。