本論は,エンゲストロームの拡張的学習の理論の意義を指摘し,その理論的基盤を解明することを目的とする。文化・歴史的活動理論に基づく拡張的学習の理論は,状況的学習論が十分に提示できずにいた,状況あるいは文脈を越境し,新しく共同体を再組織化するあり様について理論的説明を与えている。垂直的次元と水平的次元との弁証法として位置づけられる再組織化の過程は,言語を基盤としている。言語は,活動システムの媒介物として状況・文脈依存性を持ちながらも,同時に,それらの横断可能性を想定させる機能を有しており,それに拡張的学習は支えられている。