経済開発と物質文明の普及は、一般に社会の近代化を促し伝統文化の破壊や衰退をもたらすと思われがちだが、復権沿岸部では近代化と伝統文化が排泄せずに共存する現象も見られる。この地域では1980年代以降の経済開発と同時に、復興の傾向にある文化・社会的伝統も観察される。漢族の古来からの社会構造である宗族組織の復興を中心に、それに関わる祭祀・芸能や様々な宗教信仰が復活し、この現象は今も福建沿岸部で進行中である。
本稿では、この地域における社会構造の柔軟さと文化の重層性に着目し、特に莆仙戯という演劇活動の観察を通じて、近代化と伝統文化の変容について考察していく。これは今日の中国人社会がおかれている混沌とした文化状況にあって、文化の共生がどのように実現するかについて、分析の端緒となることを企図したものである。