Journal of Okayama Medical Association
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S字状結腸部憩室炎ニ就テ

吉田 美壽利 岡山醫科大學第一外科教室
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抄録
1, 腸管憩室ハ之ヲ大別シテ眞性憩室及ビ假性憩室トス, 眞性憩室ハ多クハ先天性ニシテ, 其構造腸管ト全ク相一致ス, 之ニ反シ假性憩室ハ多クハ後天性ニシテ其構造粘膜及ビ漿液膜ノミヨリ成ル, 而シテS字状結腸部ニ來タル眞性憩室ハ其大サ種々ナルモ, 余ノ例ハ長サ20糎, 太サ大人手拳大ニシテ先輩諸家ノ報告例ニ比スルモ比較的大憩室ノ部類ニ屬ス. 2, 腸及ビS字状結腸部眞性憩室ノ成因ニ關シテハ種々ノ説アリト雖, モ腸管壁ノ抵抗微弱, 特ニ大腸ニ於ケル不完全ナル輪状筋ヲ有スルHaustraハ憩室發生ノ素因トナリ腸内壓亢進ハ主要ノ誘因トナル, 特ニS字状部憩室發生ニ就テハ, 結腸壁筋層ノ經過及ビ構造ハ解剖的ニ抵抗薄弱ノ部分アルコト, 粘膜下竝ニ結締織抵抗薄弱ナルコト, 宿便及ビ瓦斯鬱滯ニヨル内壓亢進ハ蓋シ主要ナル誘因ナリト雖, 先天性S字状部ノ過長ハ亦此疾患ノ成因ニ大ナル關係ヲ有スルコトヲ推知シ得ベシ, 余ノ例ニアリテハS字状部及ビ直腸ノ全長82糎ヲ算セリ. 3, 從來腸管乃至S字状結腸部憩室ニ對シテハ解剖竝ニ病理學者ニヨリテ, 其構造分類及ビ發生等ニ就テ詳細ニ考究サレ居リシモ, 之ガ臨牀上ノ意義ニ就テハ輕視サレ, 從ツテ憩室炎ニ對スル症候, 診斷及ビ療法ニ至リテハ全ク閑却テレテ曖昧模糊ノ中ニ葬ラレ居レリ, 然ルニ輓近X光線ノ診斷法及ビ外科手術ノ進歩ト相俟ツテ該疾患ニ對シ一部人士ノ稍注目スル所トナリシモ, 未ダ以テ一般臨牀家ノ注意ヲ惹クニ至ラズ, 隨ツテ適確ナル臨牀的診斷ヲ下セル例ハ實ニ寥々タリ. 4, S字状部憩室炎ノ主要ナル臨牀上ノ徴候トシテハ, 熱發, 疼痛, 嘔吐, 皷腸, 腫瘍ノ發生及ビ常習便秘ナリトス, 而シテ急性憩室炎ニアリテハ38度乃至40度ノ高熱ヲ發シ, 加之惡寒ヲ伴フ, 疼痛ハ左側腸骨窩部ニ限局セルヲ常トス. 嘔吐ハ不定ノ徴候ナルモ腹膜ノ刺戟症状烈シキニ及ンデ屡々發スルコトアリ, 就中興味アル徴候ハ反覆性腫瘍ノ出現ニシテ急性炎症ノ際ニ腫瘍ハ著シク増大シ, 慢性ニ移行スレバ漸次縮少ス, 之レ急性炎症ニ際シ憩室内ニ糞便及ビ瓦斯ノ鬱滯ニヨリテ恰モ大ナル腫瘍ノ如クナリテ出現ス. 常習便秘ハ主トシテ慢性憩室炎ニ見ル徴候ニシテ時々下痢卜交互スルコトアリ. 5, 本病ノ診斷ハ余ノ例ニ於ケル如ク定型的徴候即チ熱發, 疼痛, 就中再三反覆セル發作ニ伴ヒテ出現スル腫瘍ノ膨大乃至縮少ノ特異ナル點ヲ考察スレバ其診斷容易ナリ. 鑑別診斷ヲ要スベキモノハ, 急性症ニ於テハ第一, 蟲樣突起炎及ビ之ニ續發スル腹膜炎症, 第二, 腸管閉塞症ナリトス, 但シ蟲樣突起炎ニアリテハ疼痛ハ主トシテ漸次右側腸骨窩ニ限局スルニ反シ, S字状部結腸憩室炎ハ左側ニ來タルヲ常トス. 腸管閉塞トノ鑑別ハ熱發ノ有無, 既往ニ於ケル反覆性腫瘍ノ出現及ビ消失等ヲ參考トスルモ困難ナル場合アリ, 殊ニ憩室穿孔ニヨル腹膜炎ノタメ麻痺性腸閉塞ヲ起シタル場合ハ其診斷困難ナリトス, 慢性憩室炎ハ結腸癌腫乃至結核トノ鑑別診斷ヲ要ス, 但シ前者ハ檢便ニヨリ血液ル混在ヲ認ムルコトニヨリテ容易ク區別シ得べシ. X光線診斷ハ重要ナリト雖, 屡々誤診ヲ來タスコトアルニ注意セザルべカラズ. 6, 豫後ニ關シテハ急性炎症ハ急性蟲樣突起炎ノ如ク屡々不良ノ轉機ヲトルコ卜アリ, 慢性炎症ト雖余ノ例ニ於クル如ク屡々急性ニ移行シテ發作ヲ反覆スルコトアリ, 從ツテ不慮ノ轉機ニ陷ルコトアルべシ. 7, 療法トシテハ慢性期ニ於テ腸管切除法ヲ理想トスレドモ, 時時腸腸吻合術ヲ以テ滿足セザルべカラザル場合アルノミナラズ, 全然不可能ノ場合アリ, 特ニ再發性憩室炎ニヨリ其壁肥厚シ結腸間膜二葉中ニ篏入癒着セルモノハ, 余ル例ニ於ケル如ク手術不可能ナリトス. 斯ル際ニハ特ニ常習便秘ニ對シテ正規ノ便通ヲ講ジ憩室内ニ糞便ノ鬱滯ナカラシムル樣努ムルニアリ. 8, S字状部憩室炎ハ從來ノ報告ニヨルモ多數ハ適確ナル診斷ヲ下スコトヲ得ズシテ全ク他ノ疾病ト誤認セラレ, 術後始メテ憩室炎タルコトヲ知レル例多シ, 然レドモ吾人ハ將來, 誤リタル多クノ經驗ヲ參考トシ, 其症候ニ精細ナル注意ヲ拂ヒ, X光線診斷ト相俟ツテ正確ナル診斷ヲ下シ得ル樣努メナバ臨牀上比較的稀有ナリトセラレタル此疾病モ案外多數ニ發見セラル可キヲ想像スルニ難カラズ.
備考
原著
ISSN
0030-1558
NCID
AN00032489