ある時代のある特定の時期に書かれ発表されたさまざまな文学テクストをながめたばあ
い、ときにジャンルさえ越えて、そこに流行語のようにいくつかのある特徴的な語や表現が
時を同じくして出現してくることがある。それはもちろん作家(詩人)から作家(詩人)へ
のなんらかの影響関係がそこにあったからだとまずは考えられよう。しかしこれは必ずしも
たんに一方から他方への単方向的な影響というのではなく、作家(詩人)たちのあいだで、
いくつかの条件があわさって、ほとんど同時発生的にある共通ないし類似の語や表現が生ま
れたり用いられたりすることもあったのではないか、また、あくまで個々の作品から遡及的
にしか見いだされぬとしても、そうした共通ないし類似の語や表現を生みだすことを可能に
した、ある時代のある特定の時期に成立していたと想定される表現可能態の言語空間がそこ
に潜在していたのではないか――本稿は、その空間をピエール・ブルデューの用語を借りて
「文学場」の名で呼んで、20 世紀初頭における日本の近代詩と19 世紀中葉におけるフラン
スの近代詩をそうした「文学場」という観点からとらえなおす試みである。