ジャンセニスムとは、ベルギーの神学者コルネリウス・ジャンセニウスの名に由来し、主
に今日のベルギーとフランスで展開された運動の総称である。ジャンセニウスの遺著『アウ
グスチヌス』のフランスでの再版と、アントワヌ・アルノーの『頻繁なる聖体拝領について』
の出版を嚆矢として、以後数年に渡る論争の口火が切られた。この初期ジャンセニスム論争
は単なる神学の教義論争にとどまらず、故サン−シラン修道院長ことジャン・デュヴェルジ
エ・ド・オーランヌの像をめぐり、熾烈な攻防戦が繰り広げられた。論争文書を繙きつつ、
現代に至るまでジャンセニスム運動の理論的支柱とされるこの人物の像が担った機能を考
える。