本論では、「走れメロス」の主人公メロスの人物像を、「葡萄の季節」、「二つの約束」、「信頼されてゐる」ことの、三つの観点から読みなおした。「葡萄の季節」では、メロスと妹婿になる牧人の、結婚式の時期の齟齬から見えてくる問題を指摘した。「二つの約束」では、王とセリヌンティウスの二人にとっての約束の意味の相違に注目し、メロスがセリヌンティウスへの意識が低いことを指摘した上で、メロスが「信頼されてゐる」ことの意味を理解したことが、「恐ろしく大きいもの」という発言に繋がると考えた。以上の考察から、「走れメロス」は友情をテーマとする作品というだけでなく、他者から信頼される意味を理解することに注目した作品であることを明らかにした。