本研究は,西田幾多郎門下の哲学者で近代の可能性を追求した文明批評家といわれる土田
杏村(1891 ~ 1934)の教育観と教育の目的に関する議論を考察し,それとの関連において,
晩年の著作である『道徳改造論』を対象として,昭和初期の修身教科書批判の内実とその特
質を明らかにする事を課題としている。
本稿はその第一報として,杏村の自由大学運動との関わりを考察する事を通して,彼の教
育に関する議論が「人格の自律」に焦点化されており,この考えが道徳論の基底になってい
ることを明らかにした。続く第二報では『道徳改造論』を主たる資料として,杏村の修身教
科書批判を考察する予定である。