本研究は、わが国の近世において教育を人間に必須の営みとして把握するとともに、教える側の視点から、教育のあり方についての見解を具体的に展開した貝原益軒の学問と教育論の特質を、民生日用との関連において明らかにすることを目的とする。本稿ではまず初めに、益軒の教育論が展開される時代背景の特質を考察し、益軒が太平の世を肯定的にとらえる一方、世の変化と行く末をも見据えながら、人々の安定した生き方を模索したことを指摘した。次いで益軒の学問について、「格物窮理の工夫と有用の学」の視点からその特質を考察し、益軒においては実学の内実が、広く世に益となるという観点からとらえられた事により、多様な教訓本をはじめとする著作が生み出されるにいたる事情を明らかにした。